お盆である。日本ではほとんどの会社がお休みになり(今年はいろいろイレギュラーではあるが)、別地域に住む多くの人がお墓まいりのために帰省をする。つまり、たぶん仏教行事のひとつかと思われるが、世界を見回してもこの時期に大型のお休みが予定される国はない。似たような行事が中国・台湾・韓国などにあるようだが、厳密にはちょっと違っている。そう考えると、やはり仏教というより、日本古来の先祖供養、御霊供養の要素が大きいのだろうと思う。

別府地獄めぐり・海地獄
お盆は先祖供養のためのもの?
何しろ仏教では宗派によっては「先祖供養」という考えがないところもある。なのでお盆だからといって先祖にお供え物をする必要がないという教えである。一方で、別の宗派ではあの世へ行った先祖に対し、餓鬼に陥らないよう食べ物やほおずき(道案内の提灯の意味)をあげたり、生前の好物をたくさんお墓に供えたりするところもある。これを見ると、日本にあった本来のお盆(昔の呼び名が何だったかは不明)という考え方に仏教の考え方が加わったのではないかと思われる。仏教以前に、日本にはあの世に対するいろいろな考え方がすでにあったようで、それらの話は神話や民話の中にしっかりと残っているのだ。

ハワイの「BON-DANCE」
世界に広がる「Bon」
このため、日本の仏教は伝来当時に比べるといろいろと変化しまくっている。宗教が国の中で変化していくのは当然で、イギリスもロシアもアメリカも当時のままのキリスト教が伝わっているわけではないし、イスラム教にいたってはまったく違う教えになっている国もある。いや、他の宗教に関してはウィキペディアを覗く程度にしか知識がないので本当のところは不明なのだが。
「盆」という名前は「盂蘭盆会」という仏教用語からきているようだし、盆踊りは死者供養のために行われているものだ。不思議なものでこの「Bon」の考え方は、移民とともに海を渡り日系人たちが暮らす、ハワイや中南米、米国カリフォルニア州などでも毎年「Bon供養」が行われている。キリスト教徒となった2世、3世たちも「Bon-Dance」を楽しみにしている。こちらの先祖供養はもしかしたら、遥か遠くの日本人に対する郷愁も含めてのことかもしれないが。

別府地獄めぐり・坊主地獄
地獄と天国の関係は
以前から疑問に思っていたことがある。「先祖供養」という際、天国にいった先祖は含まれるのか。果たして天国に住まう先祖は供養してもらう必要があるのかということ。それくらい、われわれには天国という概念が乏しい。それら比べてなんと地獄というものについて詳しいことか。
地獄にはどうしたら落ちるのか、地獄ではどんな目にあうのか、地獄行きの判決はどのように出されるのか、地獄から助かる方法はあるのか、などなど。
地獄をテーマにした小説は数多くあるが、天国の世界を描いた小説を未だ読んだことがない。私の大好きな海外ドラマの中のセリフに「地獄はあるだろうが天国なぞは信じない」というのがあって、キリスト教徒もそう思ってるんだなーとなんとなく納得した記憶がある。

別府地獄めぐり・血の池地獄
大分・別府の地獄めぐり
私の故郷に「宮地嶽神社」という古社があって、子どもの頃「宮じごく!?」と読んで叱られたことがある。毎年お正月の三が日のトップにお参りしていた産土神なのだから当然だが、地獄とはまったく関係ない。
大分・別府には「地獄めぐり」という温泉の源泉観光めぐりがある。小学校の修学旅行がここだったが、見たかった坊主地獄が大人の事情で観光ルートに入っておらず、それ以降も結局なんだかだと行く機会がないまま、東京人になってしまった。子ども心に「血の池じごく」がやたら不気味だったと記憶しているが、大人になってみてみると、どの地獄もきれいな水の色が地獄のイメージとはちょっと違うか? と印象が変わった。

大涌谷
箱根・大涌谷の地獄
箱根の地獄谷も温泉の源泉だ。昨年の大雨で被害を受けたこの地で営業をしていた知り合いの宿が先日閉鎖した。地獄の温泉が止まってしまった上にこのコロナ騒ぎ、結局営業の再開ができなくなってしまったのである(詳細はもっと複雑だろうが)。友人の友人は職を失い、わたしも友人からおすそ分けしてもらっていた恩恵を失ってしまった。まぁ、こんな話は身近にゴロゴロと、今から先はもっとあるだろう。箱根の地獄は、シャレにならないくらい、今からが本番なのかもしれない。

恐山菩提寺
恐山で死者と出会う?
もっとも地獄に近いと言われているのが青森の「恐山」である。4月下旬から10月までしか入山できず、7月の大祭が終わったところである。恐山は、比叡山、高野山と並んで日本三大霊場と呼ばれ、死者の集まる場所との異名もある。136もある「地獄」を巡る1周3kmの参拝コースが境内にあり、血の池地獄、重罪地獄、地獄谷、賽の河原、極楽浜、三途の川といった名前が並ぶ。
開山は天台宗の僧・円仁。霊夢に従ってこの地を訪れ、夢告通りの地蔵菩薩を彫り安置した。
この地の景観を形作るのは、境内にある4つの温泉の源泉である。

猿の温泉入浴で有名な地獄谷
日本は、地震と火山噴火という災害とともに歴史を刻んできたが、一方でこれら災害の恩恵とも言える温泉が各地で楽しめる。今では深く掘ればどこでも温泉が出るのではと言われるほどだ。このことは、まさに地獄と極楽の関係と似ているのかもしれない。天国と地獄は紙一重、その時針がどれくらい触れたかでどうなるかが決まるのである。
まさに今の日本が置かれている状況そのまま、天国にするのも地獄にするのも自らが決めるしかない。
コメント